ITエンジニアを育成するのは、容易なことではありません。特に、ITベンダーでは、せっかく採用した人材が使い者にならないと、雇い続ける限り、コストを生み出すだけのお荷物となり下がります。ITベンダーは、人材育成に関して、以下のような課題を抱えています。
1)OJT指導を実施しているが、社員のスキルにばらつきの大きい
2)スキルの高い人に仕事が集中し、業務量の大きな偏りが発生している
3)少数精鋭な組織のため、人材教育まで手がまわらない
このような課題は、ITベンダーに限らず、ITベンダーを使う側であるユーザ企業の組織においても、立場の差異はありますが、同じような課題を抱えています。
■ 必要とされる「スキル」とは
ITエンジニアが必要とされるスキルは、以下の3つです。
1)コンピュータサイエンス
コンピュータの原理に関する知識。ハードウェア、ソフトウェア、そして、その中を流れるデジタルデータに関する理論。
2)ソフトウェアエンジニアリング
ソフトウェアをモノとして見た「モノづくり」のための方法論。ソフトウェアの作り方について、「やるべきこと」を明確化した知識体系。
3)プロジェクトマネジメント
ソフトウェア、および、ソフトウェアを含んだコンピュータの集合であるシステムを創り上げるための実践力。通常、ソフトウェア開発・システム開発を行う時に真っ先に求められるスキル。
スキルの構造としては、コンピュータサイエンスとソフトウェアエンジニアリングが7対3の割合で知識基盤となり、その上に、これらを活用・応用するプロジェクトマネジメントが乗っかるような形となります。
新しい技術が登場する度に追加・更新されていきます。それに追随していくことがITエンジニアに課せられた宿命と言えます。
■ ハイブリッド(雑種)人材をITエンジニアにする難しさ
日本のITエンジニアは、多様なバックグラウンドをもっています。
まず、新卒採用を考えると、理系と文系という大学の分野の違い、そして、理系であっても機械、電子、情報工学など専攻の違いがあります。本来であれば、ITエンジニアの出所は、コンピュータサイエンスに相当する情報工学を専攻していることが必要とされるべきです。しかし、そうではなく、多種多様の人材を力技でITeンジニアに仕立て上げることが必要とされます。ひとまず、どこかのプログラミング研修を受けさせて、「はい、できあがり」ということになります。まさに、レンジでチンして終わりのインスタント食材のようです。
そうなると、人によってスキルのばらつきが顕著になり、実際の現場でスキル不足がたちまち露呈することになります。その結果、スキルのある人へしわ寄せがいって、もはやOJTなんてやってる時間もないという悪循環を生み出します。
また、中途採用であっても、この悪循環から逃げ出してきたスキル不足の人たちばかりなので、この悪循環を解消することはできません。
■ ITエンジニアのキャリアパス
ITエンジニアのキャリアは、プロジェクト型組織の職務体系をベースとなっています。
プロジェクトの職務階層は、以下の3つしかありません。
1)プロジェクトマネージャ/プロジェクトリーダ
プロジェクトの所有者として、納期、品質、費用の全責任を持つ。プロジェクトマネジメントを実践できる高い実務力が必要となる。管理するだけでなく、技術的な知見を持ち、適切な判断ができること。プレーイングマネージャであることが求められる。
2)設計者/プログラマー
プレイヤーとしてソフトウェアというモノを設計し、コードを書くことによって実現する。プログラミング能力、それを見える化する図解力が必要。
3)テスター
設計者/プログラマーが作ったソフトウェアを評価を効率的に実施する作業者である。
設計者/プログラマの経験を数年積めば、プロジェクトマネージャ/プロジェクトリーダへと昇格していきます。スキルを評価された結果、昇格していくわけではなく、なり手が不足しているためという理由です。
特にITベンダーは、プロジェクトの数の増加が、そのまま売上増加になるので、その傾向が強くなります。
したがって、必ずしもスキルが満たされた人だけが、プロジェクトマネージャ/プロジェクトリーダに選定されるわけではありません。
■ 教育をOJTと資格へ丸投げするしかない現実
ソフトウェア開発は、一度覚えればできる単純作業とは違い「とにかく、やってみろ」という精神だけでは、仕事が止まってしまいます。自発的に学んでいけるような人であれば、最低限のサポートさえすればOJTでも教育が可能ですが、このような人材はごく一部です。その結果、スキルの高い人が付きっ切りでやるべきことと手順を指示し、結果も確認して修正するといったことが延々と続くことになります。このような状態になると、大半の仕事をスキルのある人が引き取って、簡単な雑務のような仕事だけをさせるだけになっていきます。そして、OJTが機能不全となってしまいます。
また、情報処理試験やベンダー試験の取得を奨励し、一時金の支給や昇給の条件とし、自己啓発を促すことも多くあります。一年中、プロジェクトに参画し、絶対的に時間的余裕がないITエンジニアは勉強をする時間など皆無に近いはずです。中長期的視点でコンピュータサイエンスやソフトウェアエンジニアリングのスキルの底上げを図るのであればよいですが、短期的に目の前の仕事を効率化したり、品質を上げるには効果が見込めません。
このように、行き当たりばったりの教育が横行しています。ITエンジニアの教育は、体系化された教育カリキュラムがありません。それは、ITエンジニアが医者や弁護士のような業務資格が必要な職業ではなく、単なる労働者の一形態でしかないと認識されているからです。
■ まとめ「教育は独学を原則とし、完全な「ジョブ型」に移行せよ」
ITエンジニアの仕事は、実力の世界で「ジョブ型」です。したがって、教育も独学が原則で、自分の能力は自分で伸ばすことが当然です。それは、自分の時間だけではなく、働いている時間であっても、自学しなければならないのです。それができない人は、「選別」されるべきなのです。
できる人とできない人の能力格差は、少なくとも10倍以上あります。しかし、賃金が「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」となっていて、能力格差に見合ったインセンティブがないことが、自発的な学習を誘引できない大きな原因です。
特に、ITベンダーは、人月単価が決まっていて、いくら優秀であっても賃金を上げることができないという下請分業構造に潜む構造的問題があります。しかし、IT業界の低生産性を変えるには、インセンティブ、モチベーション駆動型の働き方へ変革しなければ、解決されないでしょう。
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